中国の情報収集とベンサムのパノプティコン

加速する中国の情報収集

中国の情報収集が止まらない。止まるところを知らない中国の、ここ2年間の情報収集また情報統制を振り返る。

まず2017年に定めた国家情報法で、中国は国家主権の維持や領土保全などのため、国内外の組織や個人などを対象に情報収集を強めた。

2018年から始まった米中貿易摩擦は、中国共産党のサイバー攻撃やスパイ活動が原因の一つとされている。これもまた中国の情報収集活動の一つである。アメリカの民間問わず組織の情報を集めていたのだ。

2019年1月9日には、中国インターネット視聴番組サービス協会がネットで発信されるすべての短編動画や評論に放送前の審査を義務づける管理基準を発表した。禁止事項には、国歌や指導者、英雄の侮辱や台湾独立など民族団結の破壊、侵略戦争美化やテロ行為の扇動以外に、自殺ゲームや動物虐待、不倫なども含まれている。この強引な施策がまかり通るのが中国。流石としか言いようがない。

 

アリババ集団のサービスと中国の支配

中国はどうやら国民から情報収集を行い、その情報を活用または統制することで国民を支配しようとしているようだ。以下の記事では、中国のアリババ集団が生活すべてをカバーするサービスを提供する代償に、利用者から個人情報を収集していることに言及している。

 

中国のアリババ集団が築くスマートフォン(スマホ)経済圏が異形の膨張を遂げている。スマホ決済を軸に、通販や生鮮スーパー、金融、医療など、生活すべてをカバーするサービスを提供する。利便性の代償は個人情報だ。購買履歴や関心、生体認証(3面きょうのことば)など、膨大なデータの一部は当局にも流れる。データをかき集め米IT(情報技術)巨大企業を超える速度で成長するアリババだが、その繁栄は共産党一党支配と密接に絡み合う。

日本経済新聞『アリババ経済圏、異形の膨張続く 6億人の情報収集~日米しのぐスマホ社会、国家の影色濃く~

 

購買履歴、学歴や資産、通院や投薬歴など、6億人の顧客情報が、アリババ集団のサービスを通すことで、AIによって処理され収集される。また同じ記事の文章だが以下の引用の通り、アリババ集団は街中のカメラをAIで分析し、火事や事件を対処するそうである。SF映画も顔負けな世界観である。

 

アリババは公安当局と協力して街を監視する役割も担う。杭州市内4500台超のカメラ映像をAIで分析。火事や事件などを察知し、200人以上の警察官に指示を飛ばす。

日本経済新聞『アリババ経済圏、異形の膨張続く 6億人の情報収集~日米しのぐスマホ社会、国家の影色濃く~』(2019年1月13日閲覧)

 

 

中国の情報収集とベンサムのパノプティコン

私はこの記事を読んで、ジェレミー・ベンサムのパノプティコンが頭をよぎった。ベンサムはイギリスの哲学者で、功利主義の父とも呼ばれている。「最大多数の最大幸福」という言葉で覚えている方も多いのではないだろうか。この言葉もベンサムの言葉である。

最大多数の最大幸福には、犯罪者や貧困者層の幸福を底上げすることが肝心であるとベンサムは考えていた。そしてそれを達成する方法こそがパノプティコン(一望監視施設)なのである。

出典: DIAMOND ONLINE「IT革命が産み出した『見世物』社会ーシノプティコンとは何か?

 

パノプティコンは、円形に配置された収容者の個室を多層式看守塔に面するよう設置し、ブラインドなどによって、収容者たちにはお互いの姿や看守が見えないように設計されていた。その一方で、看守はその位置からすべての収容者を監視できるように設計されているのである。この構造によりパノプティコンは、少ない看守でもって多数の収容者を監督することが出来るのである。

この構図は中国の構図にそっくりだと感じた。つまり、収容者たち(国民)はお互いの姿や看守(支配者)が見えず、逆に看守(支配者)はすべての収容者(国民)を監視できるのである。

ここで言う支配者はアリババ集団だったり中国共産党であり、そして国民の監視方法がアリババ集団のサービスなのだ。

またパノプティコンには、収容者を恒常的な監視下におけば、生産的労働習慣を身につけさせられるという効果がある。常に監視されているという意識があるため、収容者は秩序を乱したり、自分勝手な行動を取れなくなるのである

この例を中国に当てはめると、中国共産党に情報を収集されているという意識があるため、国民は秩序を乱したり、法を侵す行動が取れなくなるのである。ネットでの情報規制など中国の施策を聞いていると、国民の行動が制限されるのは当たり前の結果なのかもしれない。

 

ここで中国の支配体制が悪い云々、批判するつもりはない。パノプティコンはベンサムの最大多数の最大幸福から始まった体制であり、広く国民に利益が出る体制であるのは確かだろう。しかしこのパノプティコンという体制が、少ない看守をもって多数の収容者を監督するという構造は忘れてはならない。すなわち、少ない中国共産党が多数の国民を監視する支配体制は着々と出来つつあるのである。

 

参考文献

Wikipedia 「パノプティコン」 (2019年1月14日閲覧)

Wikipedia 「ジェレミ・ベンサム」(2019年1月14日閲覧)

東京新聞「中国ネット動画、審査義務付け 業界自主規制 当局圧力背景か」(2019年1月14日閲覧)

産経新聞「中国が国家情報法を施行 国内外の組織、個人が対象か」(2019年1月14日閲覧)

: DIAMOND ONLINE「IT革命が産み出した『見世物』社会ーシノプティコンとは何か?(2019年1月14日閲覧)

 

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