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カール・マルクスが『資本論』を発表してから150年以上経つのに、なぜ労働者になる人たちが多いのか
カール・マルクスという人物をご存じでしょうか。
マルクスという人物は知らなくても、マルクス経済学という言葉は聞いたことがあるという方は多いと思います。
カール・マルクスは、そのマルクス経済学の要点をまとめた『資本論』の作者として有名なドイツの経済学者です。
マルクスが『資本論 第1巻』を刊行したのが、1867年のことですから、もう世に出てから150年以上経っています。
この『資本論』という本の内容、引いてはマルクス経済学ってどういう内容なのか、簡単に説明していきたいと思います。
マルクス経済学って何?
日本のような資本主義経済において、人は資本家と労働者に分かれます。
資本家とは、市場において資本を投じ,労働者を雇い,生産活動や売買活動を行って利潤を得る人々のことです。
簡単にいうと、起業家や事業家、投資家みたいな人々のことです。自営業や個人事業主の方も大まかに分けると資本家に分類されます。
一方、労働者というのは、サラリーマンのような、自分の労働力を資本家に提供し、その対価によって生活する人々のことです。
資本主義経済の中で、基本的に労働者は豊かになれません。豊かになれるのは、資本家だけです。
富を増やしていく資本家と働いても働いても豊かになれない労働者。格差は広がるばかりです。
ではなぜ資本家と労働者の格差は広がっていくのか。マルクス経済学の始まりです。
なぜ労働者は豊かになれないのか
マルクスは、労働者が持っている労働力というのは商品であると言います。
言い方を変えると、サラリーマンの給料(サラリー)は、自らの労働力を資本家に売った対価であると言えます。
ですので、労働力と給料(サラリー)は等価でなければいけません。誰も自らの商品である労働力を安売りしたくないですもんね。
しかし、実際は労働力>給料(サラリー)になっているんです。マルクスはこれを資本家の「搾取」だと言いました。
例を出してみていきましょう。下の図を見てください。
資本家と労働者が「1日8時間労働、日給1万円」で契約を結びます。労働者は営業を頑張って、1日2万円の売り上げをあげました。
さて、労働者は1日に何円手に入れることができるでしょうか?
1万円ですよね。初めの契約で決まっていますので。では、労働者が売り上げた2万円のうち、もう1万円はどこに行くのでしょうか。
答えは資本家のもとにいきます。これをマルクスは資本家の「搾取」だと言っています。
もちろん資本家は、この労働者が1日売り上げ2万円をあげられるためのプラットフォーム(例えばコンビニの場合、運営のノウハウや入荷のノウハウなど)を作るために、自らの資本を投下しています。
しかし、資本を回収した後は、後は労働者が働いてくれるので、自らが働かなくてもよくなります。
また別の例を挙げましょう。下の図を見て下さい。今度はサービス残業を2時間やった場合です。
労働基準法第37条で、時間外労働をした場合は割増賃金を支払わなくてはならないと明記されていますが、サービス残業を行わせている会社はまだまだたくさんあるのが実態です。
この労働者がサービス残業をして生み出した利益はどこにいくのでしょうか。
答えは、もうお分かりですよね。そう、資本家にこのサービス残業の利益はわたります。これも資本家が労働者から搾取しているのです。
なぜ労働者は資本家に搾取されているのに気づかないのか
ではなぜ労働者は資本家に搾取されているのに気づかないのでしょうか。
それは、「労働者に搾取の実態が見えにくい」からだとマルクスは指摘しています。
例えば、会社は製造、営業、経理、資材、総務など、商品を作る(売る)ための仕事が様々に分業されています。
労働者が任されている仕事は全体の一部分だけなので、全体の生産量が分かりません。
そのため、資本家からもらっている賃金がすべての労働力の対価だと思ってしまうのです。だから労働者は資本家に搾取されているのに気づかないのです。
機械化が進むといつでも搾取できる人材が増える
マルクスは、工場の機械化が進むと「産業予備軍」と呼ばれる人々が生まれると言いました。
産業予備軍とは、機械による労働の自動化で労働者が余るために構造的に生み出される、いつでも搾取できる人材のことです。
この話は、ちょうど今話題のAIやRPA(ロボットによる業務自動化)にも通じる話です。
日本はアメリカやドイツと比べると、定型業務のITの活用・代替があまり進んでいません(図1)。
それでも今後AIやRPAの普及によって、人ではなくAIやロボットに変わっていく業務は増えていきます。
すると、AIやロボットに仕事を取って変わられた人が出てきます。それが産業予備軍なのです。
産業予備軍が増えると、雇用競争が生まれます。すると安い賃金でもいいから働きたいと願う労働者が増えてきます。
その結果、資本家は安い給料で労働者を雇える(搾取できる)ようになるのです。
資本家と労働者の格差は広がり続ける
ここまで、労働者は資本家から搾取されているため、資本主義経済において豊かになれないことを見てきました。
私は、これだけでも十分に労働者ってあまり美味しくない立ち位置だと思うのですが、あなたはどうでしょうか。
労働者にとって絶望的な情報はさらに続きます。
それは資本家と労働者の格差は広がりつづけるということです。
フランスの経済学者であるトマ・ピケティは、2013年に刊行したその著書『21世紀の資本』で資本収益性(純資産の成長率 : r)は、国民所得の成長率(GDPの成長率 : g)より大きくなると述べています。
資本収益率(r)とは、土地や建物、機械設備などの実物資本と株式や債券などの金融資本の収益率のことです。
土地や建物、機械設備、株式、債券などなど。これらは全て資本家が持っているものです。
一方、GDPの成長率が高くなるということは、会社でモノ生産やサービスの提供に携わる労働者の給料が増える人が多くなる(もちろん、業種業態、個々人によるところが大きいです)という意味です。
問題は、資本収益率(r) > 国民所得の成長率(g)という所です。
つまり、土地や 建物、機械設備、株式、債券などを持っている資本家の方が労働者よりどんどんお金が入ってくるようになります。
労働者として働く気がなくなりますよね。
何故労働者になる人が多いのか
では、なぜ労働者になる人がまだ多いのでしょうか。
ピケティが『21世紀の資本』を発表してから7年、マルクスが『資本論』を世に出してからはもう150年以上経っています。
私は以下の2つが大きな理由だと考えています。
①資本がない
②安定を求めている(失敗を恐れている)
資本がない
まず「①資本がない」ですが、資本(お金)がなければ資本家にはなれません。
ビジネスを始めるにしても少なからず種銭は必要ですし、土地や建物、株を買うにしてもまとまったお金が必要です。
銀行からお金を借りるにしても、土地を持ってたり、大企業につとめてたり担保になるものがなければ借りれないですから。(消費者金融は利子が高すぎてダメです)
見てきたように、資本がないのは資本家になる上でネックになります。
安定を求めている(失敗を恐れている)
そして、もう一つの労働者になる理由が「②安定を求めている(失敗をおそれている)」。
安定を求めて労働者になる人はかなり多い印象があります。
確かに事業を起こしても、基本的に上手くいかないでしょう。そういう意味で、彼らの選択肢は正しいようにも見えます。
しかし、労働者は資本家から搾取され、富の格差も広がり、豊かになれません。
私には真綿で首をしめられるように、じわじわと自分で首を絞めているようにしか見えません。
職業選択の自由がある日本において、労働者を選ぶのはあまり良い選択肢だと思えません。
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