目次
はじめに
どうも、こんにちは。ひさもとです。今回は「wRC+はなぜ流行らないのか」というテーマで書いていきます。
と、その前にそもそもwRC+とはとなると思います。ご存じの方は相当なセイバーメトリクス通ですね。感覚的には、wRC+はまだ市民権を得ていないように感じます。
本題に入る前に、まずwRC+の話から始めていきます。
wRC+の魅力
そもそもwRC+とは何か
wRC+は打者がどのくらい得点を生み出せる能力があるのかを100を基準にして計った指標です。各球場で打撃成績に及ぼす影響が異なるために、パークファクターを使うことで均一にしています。詳しくは以下の引用。
打席あたりの得点創出の多さを平均的な打者を100とした場合のパーセンテージで評価する指標。球場による影響(パークファクター)に対する補正を行っており、環境に対して中立的に打者の得点創出能力を評価するのに適している。wRC+が130であればリーグの平均的な打者の1.3倍の効率で得点を生産する打者であるといえる。 1.02 Essence of Baseball から引用
wRC+の使い方
wRC+が、打者がどのくらい得点を生み出せる力をもっているかを計るための指標であることは分かりました。では次に、wRC+を使ってみて分析してみましょう。
下の図1は、2019年シーズン(NPB)のwRC+上位10選手とその数値が載っています。1位は広島東洋カープの鈴木誠也選手で179、2位はオリックスバファローズの吉田正尚選手の168、3位は西武ライオンズの森友哉選手で162ですね。
wRC+は100をリーグの平均的な打者にしているので、例えば鈴木誠也選手はリーグの平均的な打者に比べて約1.8倍の効率で得点を生み出したことが分かります。
同じようにして、wRC+ランキング7位の山川穂高選手はリーグ平均的な打者に比べて、1.5倍の効率で得点を生み出したことが分かります。
分かりやすいですよね。
今度は2019年シーズンのwRC+ワースト10の打者を見ていきましょう。 下の図2で、2019年シーズン(NPB)のwRC+ワースト10選手とその数値が載っています。
2019年シーズンのワースト 1位は横浜DeNAベイスターズの大和選手で60、2位は西武ライオンズの金子侑司選手で76、3位は中日ドラゴンズの京田陽太選手で78ですね。
繰り返しになりますが、wRC+の基準は100になりますので、100以下ということは平均的な打者より得点効率で劣っていることになります。
ざっくり言うと、リーグの平均的な打者に比べて打てない選手ということになります。
例えば、大和選手のwRC+は60なので、リーグ平均に比べて0.6倍の得点効率だったということが分かります。リーグの平均に比べて4割減の得点効率ということですね。
と、こんな風に100を基準にして打てる打者か打てない打者かを見ることが出来ます。
wRC+の数値は以下のサイトで見ることが出来ます。気になる方はぜひ見てみてください。きっと面白い世界が広がっています。
wRC+の3つの魅力
では、wRC+の魅力とは一体何なのか。私は3点あると思います。
②パークファクターを使って補正するため、球場ごとでの差別が生まれない
③基準を100にしてあるため、評価がしやすい
一つ一つ見ていきましょう。
打者の得点への影響を適切に評価できる点
まず1つ目が、打者の得点への影響を適切に評価できる点です。なじみの深い打率、出塁率、長打率とwRC+を比べてみましょう。
例えば打率ですが、これで分かるのは与えられた打数の中で何割打てるかです。ヒットを打つ能力が分かり、3割打てる打者が優秀だとされていますが、どのくらい得点に貢献できているかは分かりません。
出塁率もどのくらい塁に出塁できているかが分かりますが、どのくらい得点をクリエイトできる能力があるか分かりません。長打率も同様です。
でも、wRC+は違います!
なぜなら、 得点期待値から導き出した得点価値を選手のパフォーマンス(成績)に加重して計算しているからです。
ですので、ある打者がどのくらい得点に貢献できているかが適切にわかるのです。
パークファクターを使って補正するため、球場ごとでの差別が生まれない
2つ目が、パークファクターを使って補正するため、球場ごとでの差別が生まれない点です。
日本の中でも様々な球場があり、名古屋ドームみたいな投手有利な球場があれば、神宮球場みたいな打者有利な球場もあります。
プレーする球場で、当然選手のパフォーマンスは変わってくるので、球場ごとでの不均一をならすために、wRC+では球場による影響(パークファクター)に対して補正を行っています。
ですので、wRC+は環境に対して中立的に打者の得点創出能力を評価することができるのです。
基準値を100にしてあるため、評価がしやすい
3つ目が、基準値を100にしてあるため評価がしやすい点です。
wRC+は100を基準にして、平均より打てる打者か打てない打者かを見ることができます。この評価のしやすさがとても良いですよね。
実は得点のクリエイト能力はwRC+だけでなく、wOBAでも評価ができます。しかしこのwOBAは「.330」みたいな感じで率で表されるので、この数値が良いのか悪いのか分かりにくいのです。
その点、wRC+は100より上の打者が優秀、100以下の打者が平均以下というのがすぐわかります。選手比較にも使いやすい指標です。
wRC+が流行らない2つの理由
ここまでwRC+の良さについて見ていきました。どのくらい得点に貢献できている打者か適切に評価でき、球場ごとの差も均一にして、なおかつ評価がしやすいwRC+はなぜ市民権を得ていないのでしょうか。
私は2つの原因があると思います。
②計算が煩雑である
一つ一つ見ていきましょう。
ネーミングが悪い
まず一点目がネーミングが悪い点です。
wRC+を初見で何の指標か分かる人はまずいないでしょう。
やはり連想しにくいネーミングのものは流行らないですよね。その点、打率・長打率・出塁率は何を表しているかが連想できて良いですよね。
wRC+は、Weighted Runs Created Plus(加重された得点創出プラス)の略です。
プラスっていうのは、wRC+がwRCという別の指標を基に計算されているからですね。
こうやって正式名称で言われると多少は分かるのですが、やはり頭字語(アクロニム)は流行らないですよ。
計算が煩雑である
2点目が計算が煩雑である点です。wRC+がどうやって計算されているか計算式で見ていきます。
まずこれがwRC+の計算式です。
パークファクターは見れるサイトがあるのでそれを使えばいいとして、wRCとはなんぞやとなりますよね。wRC+を算出する前にwRCを計算しないといけないのです。
で、これがwRCの計算式です。
わははは。また新しい指標が出てきた。そう、wRC+を算出する前に、wRCを計算する必要があり、そのwRCを計算するためにはwOBAを計算しないといけないのです。
そして、これがwOBAの計算式です。
※正確には各イベントの係数はシーズンごとに異なる
wRC+は、ここまでしてようやく算出できる指標なのです。
計算のしやすさはユーザーの拡大に大きく関連します。OPSが市民権を得たのもまさにそれだと思います。OPSの計算式って、
OPS=長打率+出塁率 ですからね。
これくらいだと計算しやすく、アマチュア野球にも展開しやすいですよね。私の周りにもアマチュア野球の選手のOPSを計算している方がたくさんおられます。
今ではすっかり市民権を得たOPSですが、ユーザーが拡大するプロセスがあったと思います。
ユーザーが計算して使うことで、OPSを目にする機会がどんどん増える。そして目にした方の中から、OPSを計算するひとがまた出て来るという流れですね。このようにしてOPSは雪だるま式にユーザーを増やしてきました。
wRC+は計算が煩雑なため、なかなかユーザーが増えないという背景があります。かくいう私もwRC+を計算しようとは思わないですね。
まとめ
まとめます。
wRC+の3つの魅力は以下の通り。
②パークファクターを使って補正するため、球場ごとでの差別が生まれない
③基準を100にしてあるため、評価がしやすい
wRC+が流行らない2つの理由は以下になります。
②計算が煩雑である
wRC+は使いやすい指標なので、ぜひ使ってください!
Twitterで細山田のルーキー時代のwRC+が8と衝撃的な数値になっていたので気になって調べにきました。めっちゃわかりやすい解説ありがとうございます。ランキングを見る限り長打の少ない俊足巧打の打者ほど下にくる傾向がありますね。
もちろん一軍の打席数でフィルタリングをかけているので、全選手規模で考えれば平均的な打者というのは大和よりも打撃貢献できないような気がします。メジャーでは出場選手数も試合数も多いので標準化しやすいのに対して、日本野球で同じ操作を行うのは偏りがあるんじゃないかと思います。
個人的に贔屓がいつもコテンパンにやられるので、大山選手が平均的な打者より低めというのはなんとも贅沢な話だなとも感じます笑
WARもそうですが、平均のレベルがイマイチピンとこないことも伝わりづらい原因のように思えます。(WARでは中位チームのレギュラー格の選手がマイナスを叩くことはほとんどありませんが…。)
それと、wRCもといセイバーメトリクスは野球盤のような攻撃スタイルを前提で行われているので機動力や進塁を良しとする日本の野球には合わないのではないかなとも思います。