出生数が90万人を切った背景

出生数が90万人を割った日本

先日、厚生労働省が発表した2019年の人口動態統計の年間推計で、日本人の国内出生数は、1899年の統計開始以来初めて90万人を下回り、86万4,000人となった。

2016年に初めて出生数が100万人を割り、日本中があたふたしている内に、あっという間に90万人を割ってしまった印象がある。

メディアも連日、多数の記事を出している。しかし、どうも出生数が90万人を切った背景についてピントがズレた見解が多い。

例えば、日本経済新聞のこの記事を見てほしい。

出生数の急減は複数の要因が重なった可能性がある。最も大きいのは出産期の女性の人口減少だ。総務省の統計では2019年7月時点で25~39歳の女性は969万人で、前年同月から約21万人減った。(中略)

厚労省人口動態・保健社会統計室は「令和になった5月の婚姻件数は18年の約2倍あり、令和婚現象自体はあった。結婚を先延ばしした夫婦の出産時期も後ろズレしたと考えられ、その分、20年以降に出産が増える期待はある。動向を注視したい」としている。

日本経済新聞『出生数86万人に、初の90万人割れ 19年統計

確かに、出生数の急減は複数の要員が重なったというのはその通りであるし、出産期の女性の人口減少も背景の一つであるのは間違いないだろう。

しかし、厚生労働省の見識には驚きあきれて物が言えない。マクロの視点でみると、出生数は昭和50年(1970年)ごろからずっと下がっている。元号が変わるタイミングで結婚を先延ばしにしたなどという一過性のものではない

そのため、この見識は大きな誤りであると断言できる。

平成30年(2018年)人口動態統計月報年計(概数)の概況 より引用

同じく日本経済新聞の記事。

若い世代が安定的な仕事を得られるよう就労支援をする。長時間労働を見直し、働く場所や時間の選択肢を増やす。保育サービスを充実し、固定的な性別役割分担を解消する。やるべきことは多い。いずれも繰り返し言われてきたことだ。だが、いまなお途上だ。

日本経済新聞 「[社説] 座視できぬ出生数86万人への減少

悪くはない。が、まだピントがズレている。いわゆる働き方改革で出生率が改善するとは私は思えないのだ。

私の見解に一番近いのが、Business journalの「年間出生数過去40年で半減・・・出生率上位は沖縄・九州占める」の以下の内容だ。

 都道府県別の合計特殊出生率(2018年)の上位は、以下の通り沖縄・九州がほぼ独占した。トップ10に長崎県(6位)、佐賀県(8位)も入っている。
・沖縄県:1.89人
・島根県:1.74人
・宮崎県:1.72人
・鹿児島県:1.70人
・熊本県:1.69人
逆に大都市圏は振るわない。出生数でトップの東京都は1.20人で最下位の47位。同2位の大阪府は1.35人で39位、同3位の神奈川県は1.33人で42位と軒並み全国平均を大きく下回っている。労働環境、物価水準、教育・育児環境など大都市圏においては結婚、子づくり、子育ての条件の悪さが影響しているのだろうか

Business journal「年間出生数過去40年で半減・・・出生率上位は沖縄・九州占める

出生率を都道府県別で分けて考えている点がまず素晴らしい。そして出生率が悪い大都市圏の子育て条件の悪さ、特に物価水準の高さについて言及している点も良い。

次は私の見解を述べていく。

出生数が90万人を切った本当の背景

そもそも出生率が悪い地域はどこの都道府県なのか

 そもそも出生率が悪い地域はどこなのか。下の図は、厚生労働省の平成30年(2018年)人口動態統計月報年計(概数)の概況に都道府県別で出生率が色分けされていた図である。

平成30年(2018年)人口動態統計月報年計(概数)の概況 より引用

これを見て、出生率が悪いのは首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)と関西圏(大阪府・京都府・奈良県・兵庫県・和歌山県)、そして東北、北海道である。

東北・北海道の出生率が下がっている原因については分からないが、東京圏と関西圏で出生率が低い原因はほとんど同じだろう。

その原因というのが、家賃の高さである。

大都市の家賃の高さは社会問題である

以前、私が東京23区内に住んでいた時は、1ルームの木造建築・ユニットバス(トイレとお風呂が一緒になったもの)で6万5千円した。

2人で過ごすなら、1ヶ月の家賃はかなり安い物件を探したとしても10万円弱はするだろう。子供ができると10万円は確実に超えるのが分かっている。そして、子供が増えるごとに家賃の負担は更に大きくなるのである。

イケダハヤトさんのブログで都市の持つ排除の力学について記載されていた。本当にその通りだと思ったので、引用したいと思う。

何が言いたいかといいますと、都心は子育て世帯を排除する力学を持っている、ということです。都心に残りたければ、もっと稼がないといけない。稼げないなら、遠くの街から都心に通わないといけない。子どもが増えれば増えるほど、そのメカニズムは強烈になります。
そうなってくると、都心に残って働きたい人にとっては、「子どもをこれ以上生んだら損になる」という負のインセンティブが働くことになります

まだ仮想通貨を持っていないの?「都心は家賃が高い→出産を機に郊外へ引っ越し→職場が遠くなる→少子化

子どもが増えれば増えるほど、家賃の負担は大きくなるというメカニズムが大都市圏には存在する。すると、大都市圏の子育て世代は、「子どもは少なくて良い」という思考になっていくとイケダハヤト氏は言及している。

これは東京の話だが、関西圏でもメカニズムは全く同じである。首都圏、関西圏の出生率の低さには家賃負担の大きさという背景があるのだ。

平成30年(2018年)人口動態統計月報年計(概数)の概況 より引用

ちなみに、三大都市圏で唯一東海圏が、出生率が高いことは気づかれたでしょうか。東海、例えば愛知県がなぜ出生率が高いのかというと、家賃が安いからである。そして、家賃が安い背景にはまだまだ土地が余っているという理由がある。

名古屋地区には少ないが、三河地区はまだまだ土地が余っており、安く土地が買えるのだ。

企業においては、ピラミッドの頂点にトヨタ自動車が君臨し、その下に連なる企業もデンソーやアイシン精機など大企業が多い。

自動車メーカーのピラミッドでTier1,Tier2などと表現するが、部品メーカーに納める部品メーカーですら、売上100億円を超える企業がざらにいる。

また工作機器大手のDMG森精機やヤマザキマザックを筆頭に独立系の超大手メーカーも複数存在する。

また愛知県の若者には、「車と家を買う」という1970年代の価値観を持っている人が多い印象がある。

絶望的なニュースはまだある!!都心への一極集中はまだ止まらない!!!

閑話休題。これまで出生数が90万人を割った背景について考えてきた。そしてその背景というのは、大都市の家賃の高さに原因があるというのが私の意見である。

これの対応策は二つある。

  • 地方への移住をすすめる。もしくは東京への転入を減らす。
  • 都心の家賃を控除する対策を立てる。

1について、内閣府は地方創生の対策として数々の施策を出している。その一つが、移住支援金の贈呈である。

これは、地域の重要な中小企業等への就業や社会的起業をする移住者を支援するとして最大100万円交付するという施策である。

ひさもと
うーん、センスないよなあ。

ちなみに、地方創生を掲げてから5年が立っているが、現状まだ良い成果は上げれていない。それどころか、都心への一極集中は加速している

東京一極集中の是正は進んでいない。第1期戦略には20年までに東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の人口の出入りを均衡させる目標を明記した。だが転入者が転出者を上回る「転入超過」は18年に約13万6千人にのぼった。14年に比べ2万6千人増え、東京圏の人口集中はむしろ進んだ形だ。

日本経済新聞「 一極集中の是正進まず 地方創生戦略、据え置き

これは本当に悪いニュースである。都心は家賃が高いため、子どもを生みづらい・育てづらい街である。そんな街に転入する人が更に増えており、一極集中しているのである。

もちろん、その中には出産適齢期の女性も多くいることだろう。

ここまで言えば、この後の展開は読めるだろう。日本の出生数の低下は更に加速するのである。

では、どうすれば出生率を改善できるのか。

もう答えは一つしかない。大都市圏の家賃控除。これしかないのである。

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